■□ フォトダマ通信 Vol.72「波立(はったち)海岸の石笛(いわぶえ)」の巻  ■□

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2006.9.15 記


いわき市の波立寺(はりょうじ)の山門を潜ると左手に湧き水があり、そこで口と
手を清め本堂に向かった。お参りを済ませ、どちらかともなく先ほど波立海岸でい
ただいた石笛(いわぶえ)を吹き始めていた。低音と高音の二つ音色は、静かに境
内に響き渡った。帰りに山門の手前をふと見上げると、草に隠れるように岩がこち
らを覗いているのを感じた…。

9月11日、国道6号線で福島県いわき市に入り久之浜を過ぎると左手に小さな赤
い鳥居が建つ岩が見えた。車を停め、陸橋を渡り岩に近付いて行く。どこか二見の
夫婦岩のように見える。岩には桟橋が掛けられていて、岩に近付くと裏には七福神
の石像や幾つもの石宮が祀られていた。その岩は、弁天岩(島)と呼ばれていた。
よく見ると岩の半分がコンクリートで固められている。打ち付ける荒波から岩の浸
食を防いでいるようだが、どこか違和感があった。弁天岩の撮影後、しばらく波立
海岸を歩いていると馬杉さんは穴の空いた小さな小石を拾った。穴は貫通していて、
片方を指で塞ぐとピーッと高音が鳴った。それから間もなく、今度は私も石を拾っ
た。握り拳ほどの石には三つの穴が貫通し、中に砂利と貝殻が入っていた。砂利を
出して穴を指で塞ぐと、ピーッと今度は低音が鳴った。
石笛を拾ったのは数年ぶりになるだろうか。

かつて、聖地に赴いた際、頻繁に石笛を吹いていた時期があった。石笛は、海岸な
どで石に貝が時間をかけても穴を開けたもので、古神道では神降ろしの道具として
使われ、能管の原型でもある。最近は、ムビラを弾くことが多く、持っている石笛
も車の奥に眠っていた。
医王山波立寺(はりゅうじ)は806年、徳一大師によって開創された、いわき三薬師
の一つで漁民信仰が篤いと言う。

波立寺を後に石情報を求め、いわき市役所へ向かった。観光課で地図をいただき石
を尋ねてみるが、あまり収穫はない。受付で教育委員会の文化課に電話をつないで
もらい、石の事を尋ねると担当者は「資料を用意しますから、どうぞいらして下さ
い。」という。いわき市教育委員会は、市役所から徒歩5分くらいの別館にあった。
担当者は、昭和52年発行の報道写真家・草野日出雄著「写真で綴る いわきの伝説」
(ヤマニ書房)という本を見せてくれた。そこには、民俗学的アプローチで多くの
石が写真と共に紹介されていた。しばらく見ているだけで、石酔いをする程インパ
クトがある。さらにページを捲っていると、驚くことに先ほど歩いていた波立海岸
のことが書かれていた。

【「採ると祟る砂利(波立海岸)」
波立寺(はりゅうじ)前の波立(はったち)海岸一帯には、海底から押し上げられ
た砂利が浜辺に積っている。それは角のとれた小豆大からチャボの卵ほどの小石で、
荒波に磨き抜かれて玉のように美しい。波立寺は波立薬師も祀る。薬師を詣でる人
々の中にもこの浜の砂利に惹かれる人がいて、何人となくわが家へ持ち帰った。と
ころがその砂利はいつの間にか薬師の浜へ帰ってしまった。また浪江の某は、築山
の庭に敷きしめようと荷馬車で運んだら、突然重い眼病に罹(かか)り、占って貰
ったところ、薬師の浜の砂利の祟りだと告げられ己れの不遜(ふそん)を悔い、元
の浜辺へ戻したところ眼病はたちまちなおった。昭和20年代まではこういう口伝を
誰でも知っていて、この浜から砂利を運ぶことなどなかった。だが、だんだんそれ
を知らない人が多くなって、美しさに惹かれるまま、袋へ詰めて持ち帰る人も出る
ようになった。しかし、浜の古老は、『心配(しんぺえ)ねぇよ、どうせ砂利は独
りで浜へ戻ってくっから』というのである。】

読み終わった時、石笛の中の砂利を出しておいて良かったと思った。実際、その砂
利はとてもきれいだったのだ。
いわき市は、磐城という地名が示すように磐座(イワクラ)との関係を強く感じさ
せる。この地で、石笛をいただけたのも何かのご縁なのだろう。
翌日、あいにく朝から雨が降り続いていた。二つの石を訪ねたが、今回、その他の
石を巡ることを断念した。
いつか、みちのくの石をきちんと巡らねばと思いつつ、東北最後の地いわき市を後
にした…。


石巡礼の途上、スペースU(館林)にて
すだぐんじ 拝

※弁天岩と石笛の写真は、こちらから見て頂けます。
http://ch.kitaguni.tv/u/1871/


●石巡礼の軌跡
9/11…福島・いわき市の弁天岩
9/12…福島・いわき市の女婆石(おなばいし)と牛石
9/13…茨城・日立市、堅破山の不動石、烏帽子石、手形石、畳石、太刀割石、兜石、舟石
9/14…茨城・八郷町の瀬川邸のイワクラ

◎『VOICE OF STONE 聖なる石に出会う旅』(新紀元社)をお求めの方は、こちらに
連絡を下さい。
voice_of_stone@sudagunji.com

◎須田郡司オフィシャルページ
http://www.sudagunji.com/
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