□■■□  フォトダマ通信 Vol.30 「ある遍路者」の巻    □■■□

        
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お遍路を再開した3月8日、室戸の海岸添いの公園で食事をしていると、ある遍
路者がやってきた。
その日、御倉洞から観音窟、最御崎(ほつみさき)寺、津照(しんしょう)寺な
どを歩き、公園でおやきを食べていた。食後、あすの携帯食にと携帯ガスコンロ
で玄米を炒っていると「ここで野宿するんですか。もう少し先にバス停小屋があ
るんですよ。」と、旅慣れた感じの五十代位の男性遍路者が声をかけてきた。

男は汚れた白装束を纏い大きな菅笠を被ったままリュックを背に腰を下ろした。
杖を置くなり「ガスコンロを持ち歩いているんだ。こんなに荷物をもって大変だ
なぁ。」と言って語り始めた。
男が言うには、四国で縁あって僧籍を取り、お寺での托鉢の許可書をもらい托鉢
だけでお四国まわり(お遍路)をして五年になるらしい。四国の方々には、日々
感謝していて修行のため、一生お遍路をつづけるとも言う。

話を聞きながらも、男の一方的に話す態度にどこか嫌悪感を抱きはじめていた。
男はビールを片手に「ビールが好きでね、お接待はビールをお願いしているだ。」
と美味そうに飲みほすと、たばこを吸いはじめた。
「納経ができて、ビールが飲めて、たばこが吸えればわしは満足じゃ。」
と言う言葉に、どこか胡散臭さも感じる。しだいに男の話に耳をかさず、無視し
て玄米を炒っていると独り言はなおつづく。
「さっきまで、地元の女性と一緒にいたんだ。彼女は頭が痛いというので、治し
てあげたんだけど…」などと言っているようだが、聞き取れないくらいな呟きに
なっていた。
男は、完全に無視されたのがわかったと見え、すくっと立つや合掌をして去って
行った。

怪しいお遍路もいるもんだ。そう思いながら炒り玄米を袋に詰め、さらに歩きは
じめた。薄暗くなった集落を少し歩いていると、老婆が何やら下を向いて話し込
んでいた。近づくと、さっきの男がリュックを背に仰向けに横になっていた。見
て見ぬ振りをして、その場を立ち去った。歩きながら、益々怪しい遍路者だと感
じた。その夜は、金剛頂寺の駐車場まで歩き野宿する。

翌々日、神峰寺に向かった。山の上にある神峰寺は、八十八ヶ所の中でも難所の
一つと聞いていた。坂道をしばらく上って行くと、昨日見かけたご夫婦の遍路者
がリュックを持たずに下りてきた。挨拶を交わしてから、ある農機具小屋の裏に
リュックを置き軽装になるとずいぶん楽に上れる。ようやく神峰寺の駐車場にた
どり着き、少し上がった処を見ると、ある托鉢をする僧侶がいた。ちらっと見た
瞬間、一昨日の男だと思った。新調したような真っ白な法依を身に付けている。
目を合わせずにその場を通り過ぎ、神峰寺のさらに上にある神峰神社へと向かっ
た。長い石段を登りながら、どうしてあの男が、先に来ているのだろうと頭を捻
った。それにしても新調したような法依を着ているとは驚いた。

神峰神社をお参りし、神社の右上にある燈明岩を撮影する。その後、神峰寺をお
参りして山門を下りるとさっきの僧侶が菅笠を取っていた。顔を見ると、あの男
とはまったく別人だった。すっかり誤解していたのだ。「あの男に捕われている…。」
そう思いながら気を取り直して山を下りる。
しばらく、雨が続いたがカッパを着て歩くのは意外と心地よかった。

それから二日後、高知市の第三十番札所善楽寺から次の竹林寺に向かって歩いて
いる時、突然、あの遍路者のことが頭に浮かんだ。
あの時、怪しく胡散臭いと感じていたあの男のことが、まったく別な姿に見えて
きたのだ。男の言う「五年間托鉢だけでお遍路をつづけている」という真意は確
かめようも無い、しかし、もしそれだけの旅をしていれば、あのように自然体に
振る舞うことができるのではないかと。好きなビールを飲み、たばこを吸いなが
ら飄々とした態度こそ、五年間の旅のなかで見つけてきた彼の生き方なのかも知
れない。

遍路者は、聖人君子とまで言わなくてもどこか修行者らしいイメージを勝手に想
像し、その鏡で男を怪しい存在と見ていたのでは無いかと。知らず知らずに遍路
者はこうあらねばなどとバーチャルしていたことが笑えてくる。
お遍路は、さまざまな生き方を見せてくれる。その遍路者は、少しだけ私の心の
荷物を下ろしてくれたように思う。
あの男は、今日も四国の何処かでお接待を受け、美味そうにビールを飲み、たば
こを吸っていることだろう。「納経ができて、ビールが飲めて、たばこが吸えれ
ばわしは満足じゃ」とつぶやきながら…。

                  坂本竜馬の銅像から海を望みつつ、桂浜にて
                                             2005.3.16  すだぐんじ拝

○●お遍路日記●○
3/8 室戸のHさんの処にフォトダマ号を預け、晴れやかな天候のもと御蔵洞
      まで戻り午後からお遍路再開。観音窟近くに「人生即遍路」の石碑あり。
      最御崎寺境内に金属音のする不思議な石あり。津照寺をお参りし金剛頂
      寺駐車場で野宿。

3/9 七時起床。晴れ。金剛頂寺、不動岩を参拝。国道55線添いの海を見な
      がら歩くと遍路者二人に追い越される。とにかく暑い。奈半利の弘法大師
      御靈跡を参拝。岩を庵が半分覆っていて、岩の穴に何かを安置している。
      横で一眠り。田野町の道の駅で携帯充電、スリーエフで月刊石材のゲラ
      をチェック。 安田橋の下で野宿。

3/10 七時起床、長い坂を登り神峰神社、神峰寺をお参りし下山途中、雨が降る。
       カッパを着て歩くのもいい感じがする。地蔵洞でムビラ奉納。道の駅大
       山で久々の外食うどん食をべる。歩き遍路八人みる。ローソンで春秋四
       月号の校正を送る。近くの公園で野宿。

3/11 朝五時起床。雨後曇り。サイクリングロードは車も無く歩きやすい。
        台風の被害で危険ヵ所あり。大日寺に着くと雨が上がりムビラを奉納。
        奥ノ院の薬師堂下には、自然で穴が開いた石がたくさん納められてい
        た。高知の岡村さんに連絡しお遍路宿をお願いする。岡村さんファミ
        リーと二年ぶりの再会し夕食のお接待。葦船カムナ事務所泊。

3/12 七時に出発。曇り。国分寺は梅の花が咲き建物が神社のようで渋い。
        土佐神社、善楽寺をお参りするとかなり市街地になってくる。牧野
        植物園の中を通り竹林寺へ。その後、禅師峰寺まで歩き種崎から
        フェリーで渡り区切り遍路を終える。葦船カムナ事務で石川仁と再会
        し飲み語り泊。

3/13 久々にココスのモーニングバイキングに出掛け、第六回よさこいエコ
       祭り会場の中央公園に。葦船カムナプロジェクトのブースを手伝う。
       設営後、公衆トイレで財布を置き忘れ、戻るが消えていた。すぐ交番
       に届けるも中には運転免許証、カード三枚、その他に多少のお金が…
       かなりショック。石川仁の講演を聞く。小川さん達との再会、なおさ
       んとの出会い。夜、カムナ事務所で仁と飲み語り泊。

3/13 朝九時、きみさんにおむすびを頂き高知駅まで送ってもらう車中で携
       帯電話が鳴り高知警察署より、財布が届けられたとの知らせあり。お
       金以外は全て戻る。助かった。ほっとしてしばらく気が抜ける。
       フォトダマ号の受け取りと確定申告を出すために室戸へ。

◆ ◇フォトダマ通信後記◆◇

☆ 約五年ぶりに田野町の小松ケイジ&マサヨ夫妻に再会する。美味しい鍋と
  お接待宿をいただく。猫の天竹(てんちく)、犬のダルにも歓迎され遊ばれ
  る。陸亀の利吉(りきち)は静かに立ち上がっていた。ムビラを弾くと、
  天竹は瓢箪のデゼが気に入ったようで中に入り遊んでいた。昨年、二人が
  出掛けたタスマニアの写真を見せてもらうと凄い岩が…。いつかは行かね
  ばと決意する。区切り遍路を終え、再び田野町で再会し一緒に二十三士温
  泉へ。ケイジ&マサヨちゃん、素敵な晩餐をありがとう!マサヨちゃん、
  ムビラ楽しんでね!ケイちゃん、トランス石巡礼の作曲を楽しみにしてますよ!

☆ 室戸のHさにはこの度、フォトダマ号をお預かり下さった上、お接待宿の
  ご提供を頂きまして誠にありがとうございました。

☆ 高知の岡村ファミリーの皆様、大変お世話になりました。のぶちゃん、みえ
 さん、お接待をいただき感謝申し上げます。

◎お知らせ

友人の石川仁が行なっている葦船カムナプロジェクトをご紹介します。彼は今、
5月8日の検証航海(足摺〜伊豆大島)出航に向け高知県土佐清水市の港で全長
16メートルもの葦船をボランティアスタッフの仲間と共に作っています。
出航まで二ヵ月を切り、葦船作りをボランティアで参加できる方を募集中とのこ
と、葦船大作線(ASHIBUNE.COM)へのアクセスで活動内容を見る事ができます。
共鳴でき、時間のある方はぜひ土佐清水まで!(宿と食事の心配なし)

● 今後の遍路について…

今回の区切り打を終え、これまでのような区切り打をして、しばらく車で回るス
タイルの難しさを痛感しています。財布の一件も含め、これは中途半端なお遍路
への警告のようにも見えるのです。特に高知に入ってから、四国靈場の場所の持
つ力の強さを感じています。今後のお遍路のスタイルは、しばらく検討したいと
思います。

「お四国を舐めたらあかんぜよ!」との土佐の声を感じつつ…。    
                             すだぐんじ拝






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