□■ フォトダマ通信 Vol.18 「カルデラ曼陀羅」の巻   □■

        
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「阿蘇を表現したいんです!阿蘇の自然と向き合った時、圧倒的な力で感動が押し
寄せてきて、それを焼き物で表現したいと思ったんです。」
阿蘇坊窯の山下太氏は語る。
その日、山下氏と彼の友人の三人で朝方近くまで、焼酎を飲み語り合っていた。
福岡出身の山下氏は、阿蘇山麓に窯をかまえて三年目になる。彼は、阿蘇にあるさ
まざまな土、釉の原料となる草木、火山灰、溶岩と出会い、そして地域の人々とそ
こに根付く山岳信仰との出会いの中で、そこで得た発見と感動を器に表現していた。

山下氏と初めて会ったのは一年前の夏、代々木公園のアジアンフェスティバルの会
場で友人の西見君に紹介された。彼らは、イギリス滞在中のルームメイトだったと
いう。
山下氏は20代の頃、ジャンクアートをやっていてゴミを使った、リサイクル作品を
作っていたと言う。


「その頃は、自己満足でしたね。その後、必要なもの、人が喜ぶもの、残すべきも
のとは何なのかと探している時、陶芸と出会い、阿蘇と出会ったんです」彼は言う。
強力なインパクトを与えたのは火口、カルデラ、マンダラといった阿蘇という
場所がもつ宇宙観だ。そして、阿蘇を理解したいという彼の思いは、土を触
る行為、つまり皮膚感覚という体を通して理解する事だった。
彼のこだわりは、釉薬作りから土作りに至る。陶芸家の多くは、釉薬会社から購入
する。しかし、彼は阿蘇で採れた草木だけで灰を作り、土も釉もカルデラ内で採れ
たものしか使わないこだわりだ。三十代に入ったばかりにして、この真摯なこだわ
りに驚かされる。
石好きなことも手伝って、我々は話に花を咲かせていた。折しも、台風16号は沖縄
に上陸し、ゆっくり九州へと北上しようとしていた。


8月末、日向市での石の撮影を終え宮崎市に向かっていると、阿蘇地域振興デザイ
ンセンターの坂元さんから電話が入った。それは撮影依頼の電話だった。私は、え
びな経由で再び阿蘇に向かった。
人吉から五木に向かっている途中、激しい夕立が待ち受けていた。大雨の中、走る
フォトダマ号の前方に稲妻が走り、落雷の轟音。雨、光、轟音はしばらく続いた。
五木の道の駅に無事に着いた頃、ようやく夕立は納まった。その日、宮崎市ですり
減った前輪タイヤ二本を交換しておいてフォトダマ号も快適に走れて助かった。
道の駅に流れる五木の子守歌を聞きながら車中泊し、翌日、阿蘇に入った。


坂元さんの依頼は、阿蘇における自然と人、集落のたたずまい、水や花の風景、古
代からつづく阿蘇全体のイメージなどの写真を撮って欲しいとの事だった。大きな
テーマである。
しばらく、石の撮影しかしていない自分にとって、大きなチャンスだとも思えた。
それからというもの私は、山下氏の阿蘇坊窯に泊めていただきながら、フォトダマ
号で阿蘇を駆け巡り、撮影を開始した。
大観望から観える根子岳、高岳、中岳、烏帽子岳、そして、それらを取り囲むよう
なか続く外輪山。それらの風景を観ていると阿蘇全体が、巨大なカルデラ曼陀羅と
しての聖地に見えてくる。
一方カルデラ内では、阿蘇神社参道添いの多くの湧水、広がる田園風景、たくさん
の温泉、古くからの古墳群、農村風景と花など…。
阿蘇を走れば走るほど、この土地の持つ豊かさを実感していった。かつて、阿蘇に
住み始めた人々は、この土地の持つ聖地性を感じていたのだと思う。阿蘇は、蘇り
の地であり、再誕(リボーン)の場所なのかも知れない。漫画「ヤマタイカ」や映
画「蘇り」の舞台も阿蘇だ。


外輪山にある押戸石の石群とも久々に再会した。押戸石の丘から外輪山を見た風景
は、日本とは思えないくらい雄大で、どこか大陸を感じさせる。坂元さんの提唱す
る「九州は阿蘇大陸」とは、この風景から想像できるように思えた。
台風16号が、鹿児島に上陸しはじめた頃、私はフォトダマ号と共に阿蘇坊窯に非難
させて頂いていた。昨日からつづく雨風で撮影はできず、山下氏の窯入れの手
伝いをしていた。しばらくして、落ち着くと彼は「須田さん、何か作りませんか?」
と粘土を出してくれた。私は、茶わんのような丼のようなモノを作りはじめた。な
かなかうまくゆかないが、土いじりは心地よいものがあった。


その夜、山下氏の両親も阿蘇に来られていて、お母様の手料理に舌鼓を打ちながら
ご馳走になる。彼のお父様は、十数年前に阿蘇の土地を購入し、十年の歳月をかけ
て福岡から通いながら見事な別荘を自分の力で拵えた方だ。
私は、お礼の気持ちでビデオを見て頂く事にした。かつて、写真と同時にビデオの
撮影を行なっていた時のものだ。チベットへの旅(93)、ケルト巡礼(94)、カイ
ラス巡礼(95)、インドネシアへの旅(96)、南米巡拝(96)、セウド・マッピア
(96)、イースター島(96)、猿田彦大神巡行祭(97)などをまとめた小作品集で、
二時間という長い時間にも関わらず、興味を持ってお付き合い頂いた。
深夜、雨風はさらに激しさは増していった。あすの満月、台風16号は熊本上空を通
過しようとしていた…。
台風16号は通過した。私は、山下氏に感謝しつつ阿蘇を後にした。

ここしばらくの日本列島は、海神、龍神、火の神達の動きが目まぐるしい。

いままさに台風18号は再び阿蘇大陸に上陸し、猛烈な暴風雨でフォトダマ号は揺れ
ている。しかし、山鹿の不動岩は、微動だにしていない…。

           2004.9.7  肥後の圀、山鹿の不動岩にて 須田郡司拝



★↓のアドレスで、台風16号上陸前日、外輪山に架かる虹の画像をアップしています。

http://ch.kitaguni.tv/u/1871/


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