■□ フォトダマ通信Vol.10「宮古・伊良部島〜チベットの記憶〜」の巻 □■

    
                                    
■┏┏┏┏┏┏┏■┏┏┏┏┏┏┏┏■┏┏┏┏┏┏┏┏■┏┏┏┏┏┏┏┏■


3月1日の深夜、何匹かの野良犬の遠吠えが寝耳を突き刺した!

その夜、私は宮古島の離島、伊良部島の佐良浜港にいた。港の近くの石のベンチ
に横になっていた。犬の声は、快適な夢見心地から現実世界へと引き戻した。
数匹の犬達は、まるで無法者を追い払うように、ある一匹の犬に対し吠え続けて
いた。縄張り争いなのだろうか。
沖縄本島では、あまり見かけなくなった野良犬も、宮古島ではよく見かける。
ここ伊良部島においてはさらに多い。
ここは、野良犬達が生きられる世界があった。


犬は、はっきりいって苦手である、どちらかと云うと猫派だ。小さい頃、犬に追
われたトラウマがあった。1993年初めて訪れたチペットでは、犬に噛まれ狂犬病
を恐れながら蔵医院に通った。ラサの街は、夜になると野良犬達の無法地帯とな
り、遠吠えが響き危険だった。
チペットで最も恐いのは遊牧民の飼う犬だった。1995年、フィンドホーンの仲間
とカイラス山を巡礼した後、グゲ王国の仏教岩窟遺蹟に向かった。その時、走る
ランドクルーザー目がけて体当たりしたのが、遊牧民の犬たった。しかし、ZO肺
年のラサは、すっかり変わっていて、犬の姿は消え、夜はカラオケの音が響いて
いた。
あるチペット人は冗談まじりで「チャイニーズ エプリスィング イート」と言
っていた。


伊良部島の犬は、それほど危険な感じは無かった。かつてペットとして飼われて
いたが捨てられたのだろうか。小さいのから大きいのまで、色んな種類の犬がい
た。
私は再び石のベンチに横になり、夢の世界に戻ろうとしていた。うとうとし始め
ていると、今度は人の囁く声が聞こえてきた。暗闇に目を懲らすと着物姿の女が
数人立っていて、こちらを覗いているのだ。
一瞬、ぎょっとして夢を見ているのかと思ったが、それは現実だった。
女達は50代か60代で、頭に何かを乗せていた。その呟く言葉の意味は分からなか
ったが、私に対し何か言っているという事に想像はついた。私はモーフをとり、
その場を立ち上がりベンチの横の芝生に腰を下ろした。寝呆け眼で、その着物姿
の人達を見守る事にした。


ペンチの裏には小さな公園があり、そこの中央で何やら、神事が行なわれようと
していた。その正面に石のベンチがあり、寝ている私が邪魔だったのだろう。
白い着物を着た一人の女が中心になり、黒っぽい着物を着た四人の女達は、神事
の準備をしていた。頭に載せていた物は供物のようだった。
御座には供物が並べられ、その前には、女達により砂が撒き敷かれていた。かな
りの量の砂だ。
しばらくすると、大きな豚を乗せた軽トラックが広場に乗り入れた。男三人掛か
りで豚は、引っぱり下ろされようとしていた。豚は泣き叫び抵抗していたが、や
がて広場に下ろされた。この豚は、生け贅だ…そう思った。
それから、何かそこで行なわれたかはわからない。
しばらく暗闇の中、その光景を眺めていたが突然、強い眠気に襲われ、私はフォ
トダマ号に戻り倒れるように横になった。


突然のどしやぶり雨の音で、飛び起きた。
目の前には、いま正に真っ赤な太陽が地平線から上りはじめていた。私は雨に打
たれながらも、お天道さまに夢中でシャッターを押していた。しばらくして、後
ろを振り替えると、祭りは終わったように見えた。女』はびしょ濡れになりなが
ら、雨宿りをしていた。


広場の近くの建物前では、さっきの大豚が、四人の男達によって引っ張られてい
た。建物の中には、大鍋に火がかけられていて、これから儀式が始まろうとして
いた。ある男が、生きている豚に直接ガスバーナーをあて始める。別な男は包丁
で豚を撫で始めていた。豚を葬るのは、四人の男たちの仕事だった。
やがて肉の焼け焦げた匂いが、フォトダマ号の中に漂ってきた。私はその場にい
たたまれず、逃げるように平良江、iきのフェリーに乗った。


2000年の秋、チペットでヤクを殺す光景と出会った。
チペット人はラマ教徒で、いわゆる仏教徒でもある。彼らの主食はツァンパ(チ
ンコー麦)だが、ヤク(高地に住む牛のような動物)はミルクをはじめ肉、毛皮
などなくてはならない動物だ。
西都からチベット人になりすまし、巡礼トラックに乗り込みカンゼの街に宿泊し
た時だった。早朝、ある家の前では、男が二人、これからヤクを葬ろうとしてい
た。
朝霧の立つ中、男達はヤクを横にして、ゆっくりと顔に縄を巻きはじめていた。
ヤクは、時折苦しそうに声を上げていた。しかし、しだいに吐く息も少なくなっ
てきた。最後に小さく吐いた息が水蒸気となって、やがて呼吸は止まった。
それは厳かな儀式だった。

今頃あの豚は、皆の胃袋に納まっている事だろう。そう思いつつ、城辺町のドル
メンヘと向かった。


石垣島に来て、五日になる。本日、3月10日より石垣市立図書館での「世界の
いわくら」八重山展がスタートした。
図書館長さんは石垣の石や岩にとても興味を持っていて、いろんな場所の石情報
を提供して下さる。

 これから八重山の石巡礼を楽しみたいと思う。

            2004.弥生3.10石垣島にて 須田郡司 拝

─────────────────────────────────────

« 前号次号 »