■□□■ フォトダマ通信Vol. 2 「脱穀を手伝う」の巻  ■□□■
                                    
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 「ゆうべ熊がでたんさー、おっかね一よ一」沼田に帰省した時、お寺のおぱさん
は言った。Iお寺の庭に柿の木があり、その実を食べられたのだ。道端には大きな熊
の糞があり、中にどんぐりがあったという。昼間、市の役人と警官が来て写真を撮
ってゆき、また熊がでたら檻を仕掛けてくれるという。今年に入ってから沼田で二
十頭の熊が捕獲されていた。
 沼田市は群馬の北部に位置し、谷川連邦、穂高山、赤城山、子持山などの山々に
囲まれ、坂東太郎(利根川)をはじめ多くの河川が合流してできた河岸段丘地形で
知られている。一般的には、尾瀬の玄関、真田の里、などで知られて(?)いる。
利根沼田地方はしばしば熊(月の輪熊)が里に出没し、農作業をしている人が襲わ
れる事があった。小学生の頃、何度か熊が出没し空き缶を鳴らしながら集団登下校
をした覚えがある。生家では、よく玉蜀黍(トウモロコシ)が熊に食われたが、ち
ょうど実が熟したものだけを綺麗に食べていた。

 生家は三峯山の麓にある小さな集落の農家で、屋敷内には弁天さま、稲荷さま、
大黒さま、庚申さま、猿田彦大神、などの石の宮が祀られていた。屋号は傘と呼ば
れ、昔から俗称で弁天とも呼ばれていた。屋敷の回りには水田や畑があり、どこに
でもある田舎の風景である。
 帰省した頃、水田には稲刈りを終えた稲穂が、竹で作られた「はって」にたわわ
に掛かっていて、まわりの山々はちょうど色付き始めていた。久しぶりに見る秋の
光景をしばし味わっていると、「調度いい時に来た。明日から脱穀をやるから手伝
え!」と父は言った。久しぶりに脱穀を手伝う事になった。

 かつて小中学生の頃、農繁期ともなると学校は休みか、半どんになり農作業を手
伝った。田植えや稲刈りの時などは家族総出、親戚の人も集まり賑やかだった。休
憩時には田んぼの土手に座り、皆でくだものやお菓子を食べるのが何ともいえなか
った。三年前、東チペットのカンゼを訪れた時、このような光景と出会った。ちょ
うどチンコー麦の収穫で大勢のチベット人達は歌を歌いながら鎌で麦を刈っていて、
休憩時に賑やかにバター茶を飲みお菓子をほおばっていた。かつて、日本にもこの
ような貧しくても豊かな光景があちらこちらに在ったのだと思う。

 翌朝八時、父はコンバインのエンジンをかけ、たんぽの中に入ってゆく。お手伝
いに近所のおばさんが二人来てくれていた。コンバインはエンジンの音を唸らせ次
から次へと藁と米を分離してゆく。おばさん達は手際よく藁を束ねてゆく。初めて
見るこの機械の凄さに圧倒されながら、袋に溜まった米と、束ねられた藁を交互に
一輪車に乗せ倉庫に運ぶ。機械化が進んだとはいえ、農作業は肉体労働である。刈
り取られた稲穂は約二週間お日様に照らされる。そうすると美味しい米になるとい
う。何とも不思議だ。いや、農業のあらゆる現象が神秘そのものだ。
 かつて生家は養蚕農家であった。そのほかに蒟蒻(コンニャク)、ホップなども
作っていた。十六年前に母が他界してから、養蚕をやめ、米と食べる野菜を作るく
らいになっていて、かつての桑畑には手のかからない栗や柿などが植えられていた。
七十を過ぎた父にとって、農作業はかなりきついものだと思う。幸い、近所の人達
の支えがあり細々と続けられている。減反政策や、人を頼んでの米作りは、あまり
収入にならない。しかし父は米作りを、先祖から伝わる水田を守るためにやってい
るのだと言う。「あんまり無理しない方がいいよ」と言うと「田んぼを山にすると
人に笑われるからなあ! 稲作を一年休むと、後から田んぼに戻すのは大変なんだ」
と、父は言う。今年は全国的に冷夏で収穫高が少ないといわれていたが、生家の米
は例年よりやや少ないだけで、父も満足そうだった。事業をする兄夫婦と同居して、
自分のペースで一人で好きなように農業を続けられる父は、大変だが幸せなのだと
思う。

 二日間の脱穀作業の報酬は一年分の玄米だった。生まれた土地の米を食べられる
という事は、何とも有り難い。先祖伝来の土地靈が入った米靈をフォト靈号に積み、
ようやく群馬石巡礼へと向かった。


追伸

 その後、フォト靈号と共に天狗で知られる迦葉山、万葉集に詠まれた子持山、上
毛三山の妙義山、榛名山、赤城山などの石、岩を巡る。あらためて故郷の山々の魅
力を再発見しつつ、紅葉の美しさを堪能する。ただ、今年は群馬のあちこちで熊が
出没している。冷夏の影響で山の幸が少なく、里に下りてきているからだ。熊も冬
眠前で必死なのだ。                  I・
 さて、今日も熊を邪魔せず、鈴を鳴らして山にゆこう!

              上州にて 須田郡司 拝   2003.10.31
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