【フォトダマ通信Vol. 1】
                                    


 十三夜の晩、とある海岸で押しては返す波の音に耳を傾けながら、海面に写る月の
変化を眺めていた。時おり激しく波打つ音が自然のカを見せつける。月に重なる雲は、
まるでダンスをするかのように見え隠れしていてどこか艶めかしい。旅の空でこんな
月の夜を何度眺めてきたのだろう。チャンタン高原のカイラス山のサカダワで震えな
がら見た月。南インドのバックウォータークルーズでまったりした時閻の中で見た月。
アフリカ・ジンバブエの石の聖地ドンボシャーで見た月。当たり前のように世界じゅ
う何処でも月はその姿を写してくれている。エビス黒生を飲み干すと、無性にムビラ
が弾きたくなった。ジンバブエ産の瓢箪を取出しムビラを弾きはじめた。しだいに波
の音とムビラの音が合わさり、心地よい場が作られてゆく。

 これまで幾つかの国を訪ねてきたが、その国の民族音楽に填まった事は無かった。
しかしジンバブエのムビラだけは例外だった。ジンバブエの首都ハラレの安宿で初め
て聞いたムビラの音色は、ショッキングなまでに心を打ち付け、そのリズムは魂を揺
さぶった。言葉では表せない不思議な魅力があった。その後、ジンバブエでお気にい
りのムビラグループ・ムビラゼナリラの演奏を何度か聞くようになり、しだいに虜に
なっていった。ムビラとは日本語では親指ピアノ、英語ではハンドピアノと呼ばれる
ジンバブエのショナ族の民族楽器だ。さっそくハラレでムビラを求め、習いはじめた。
ムビラは様々な儀礼で弾かれている楽器で、特に宗教儀礼では先祖の霊を降ろすため
の道具でもある。繰り返し繰り返し奏でる音霊でトランス状態に導く。

 昨年夏、日本に帰国してからというものムピラを所かまわず弾きはじめた。公園や
歩きながらの道、地下鉄のホームや電車やバスの中などなど。するとたまにその音を
聞いて声を掛けてくれる人がいる。「いい音ですね、どこの楽器ですか」。そしてム
ビラの説明が始まるのだ。ムビラはこの都会においてちょっとしたハレの世界を作っ
てくれる。誰に聞かせる訳でもなく.ただ弾く、その行為にしばらく填まっていった。
日本石巡礼キャラバンを思い立った昨年暮れ、このムビラを日本じゅうのイワクラ
や洞窟で弾きたい、いや奉納したいと思うようになった。そして日本各地の石との出
会いをフォトダマとして撮影したいと。日本石巡礼は音霊とフォト霊(タマ)による
祈りのキャラバンである。

 この二ヵ月間は部屋の整理やキャラバシの準備に追われていた。一ヵ月程前、友人
の紹介で中古の軽バンを手にいれた。車は12年前の三菱ミニキャブで走行距離7万キ
ロ。この車が生まれた頃、ちょうど意識的に聖なる場所を巡礼し始めていた頃だ。こ
の愛車にフォトダマ号と命名し、三年の車上生活と巡礼をお願いした。
 何処からきて何処へゆくのか。15年半住んでいた東京を離れ、10月4日から本格的な キャラバンはスタートした。憧れの放浪巡礼生活が始まったのだ。先の事に不安が無 いと言えば嘘になるが、どこか目に見えない大きな存在に身を任せていれぱ成るよう に成るのである。そんな言葉を言い聞かせつつ、孤独を愛し、まだ見ぬ石との出会い や道草を思いっきり楽しみたいと思う!
聖石巡礼の途上、縁深き伊勢の地より 須田郡司拝 2003.10.12
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